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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)5157号 判決 1963年4月01日

判   決

東京都豊島区池袋東三丁目二四番地

原告

鈴木一夫

同都同区雑司ケ谷町一丁目三一〇番地

原告

下山四郎

右両名訴訟代理人弁護士

今井忠男

曾根信一

同都同区池袋東三丁目二四番地

被告

学校法人東洋文化学園

右代表者理事長

名川保男

右訴訟代理人弁護士

岡村了一

大橋正爾

酒井什

右当事者間の昭和三五年(ワ)第五一五七号理事会決議無効確認及び登記抹消、同三六年(ワ)第八七三〇号理事の地位にないことの確認各請求事件につき当裁判所は次の通り判決する。

主文

被告東洋文化学園は訴外野本良平、同名川保男が何れも右学園の理事長の地位にないこと、訴外三村英雄(旧姓阿部)、同堀熊治郎、同松永東が何れも右学園の理事の地位にないこと、原告等が、右学園の理事の地位にあることを確認する。

訴訟費用は被告学園の負担とする。

事   実(省略)

理由

第一、原告等の当事者適格の有無について

(1)  被告は昭和三四年一〇月七日被告学園の理事会に於て原告等を解任する旨の決議がなされているから、原告等には本訴の当事者適格がない旨主張する。その主張のような決議があつたことは当事者間に争がないけれども、該決議は後記五で判断するように無効であり、原告等の解任はその効力を生じていないものであるから、そうである以上被告のこの主張は採用できない。

(2)  被告は、原告等が昭和三六年一〇月六日被告学園の理事を任期満了により退任したことを理由に原告等が本訴の当事者適格を有しない旨主張する。原告等が昭和三三年一〇月六日被告学園の理事に就任し、その任期が三年であるので被告主張の時期に任期満了となることは当事者間に争がないけれども、成立に争のない甲第三号証によれば、被告学園の寄附行為第一一条第三項は「役員はその任期満了の後でも後任者が選任されるまでなおその職務を行う」と定め、又同第五条は被告学園の理事の定員は五人以上七人以内とする旨定めていることが認められるところ、後記三、四で判断するように訴外松永東、同三村英雄、同堀熊治郎は被告学園の理事の地位にないのであるから、原告等が前記のように任期満了した時期に於ては被告学園の理事はその最低の定員五名を割るに至ることになるのであつて、かかる場合は原告等は寄附行為第一一条第三項により、後任の理事が選任されるまでその職務を行うべきものといわなければならない。従つて、原告等はなお、本訴につきその当事者適格を失わないものというべきである。

(3)  被告は昭和三六年一一月一八日被告学園の理事会に於て原告等を解任する旨の決議がなされたから原告等は本訴の当事者適格を欠く旨主張する。弁論の全趣旨により成立を認める乙第一五、一六号証と、原本の存在及び成立に争のない同第二四号証の一乃至三によれば、被告主張のような決議をしたことはこれを認めることができるけれども、右決議には訴外三村英雄、同堀熊治郎が理事として参加していることも同証拠によつて認められるところ、後記四で判断するように三村、堀の各理事選任の決議は無効であり、両名はその地位を取得しないものであるから、昭和三六年一一月一八日の前記決議は理事でない三村、堀が出席して決議に加わつた瑕疵があつて、無効というべきであり、原告等の解任は有効でなく、そうである以上被告のこの抗弁は失当として排斥を免れない。

第二

一、請求原因一の事実及び同二の(1)の事実、同二の(2)の事実のうち昭和三四年三月二七日東京都中央区銀座の名川法律事務所で開催された被告学園の理事会に於て当時の理事全員が出席して理事長堀内敬三の辞任に伴う後任理事長の選任問題につき協議したことは何れも当事者間に争がなく、被告学園の寄付行為上理事のうち一人が理事の互選により理事長となるものとされていることも弁論の全趣旨に徴し当事者間に争がない。

二、原本の存在及び成立に争のない甲第一八乃至第二〇号証、右甲第一号証によりその成立を認めうる同第七、八号証の各一、二に弁論の全趣旨を綜合すると、昭和三四年三月二七日の前記理事会に於ては堀内理事長の後任の互選方法につき被告学園の円満な運営のため堀内理事長と理事の原告下山及び名川保男の三名で後任の候補者を選定した上、その指名を堀内理事長に一任した形式として、これを残余の理事である原告鈴木及び野本良平の同意を得たうえで理事長として選任する方法が決められていたが、堀内理事長はその後理事の名川が同野本を後任候補として推したので理事の原告下山にも異議がないものと考え、同年四月二六日野本を後任理事長の候補に指名したこと同年五月二日名川法律事務所で被告学園の理事会が開催され、堀内理事長が病気で欠席したため、原告両名及び名川、野本の四理事出席の下で堀内理事長の指名にかかる理事長候補野本の選任につきその可否を審議したが、原告両名が野本を後任理事長にすることに反対したため、その決議にいたらず散会したこと、及びその後堀内理事長の指名により野本が理事長に選任されたとし、野本が代表権を有する理事であり、その他の理事は代表権を有しない旨の登記がなされたことが認められる。

被告は後任理事長の選任については一切を堀内理事長に一任し同理事長がした候補者の指名を以て後任理事長選任の効力が生ずることに決議せられていた旨主張し、原本の存在及び成立に争のない甲第五号証の二乃至四にはそれに符合するかの如き記載があるけれども、それらの記載は、野本、名川の側に於て登記手続上一方的に記載したもので当時から原告等はその記載は事実を歪曲するものであるとして理事としての署名を拒否していたものであることが前顕甲第一九、二〇号証により認められるから、何れも証拠として採用し難く、又原本の存在及び成立に争のない乙第二二号証の二、三、同第二三号証の二(各本人調書)のうち被告の主張に合致する記載は、前掲各証拠特にこれによつて認められるところの被告学園に於ける理事たる原告鈴木と野本との在来の対立関係、原告下山、名川が理事に選任せられた経緯等に徴し、到底これを措信することができない。

そうすると野本が被告学園の理事長に選任された旨の決議が事実に吻合しないことは明らかであり、野本はかつて理事長の地位を取得することはないというべきである。

三、請求原因(三)の(1)の事実は当事者間に争がないから野本が被告学園の理事長として訴外松永東を東洋音楽短期大学の学長に委嘱したこととなる理由であるが、前記のように野本は被告学園の理事長の地位にないから、同人のした学長の委嘱はその効力を生ずるに由ないものといわなければならない。のみならず、被告学園の寄附行為上被告学園の業務の決定が理事会によつて行わるべきことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争がなく、学校法人である被告学園に於ける学長の委嘱選任の如きは被告学園の業務の決定にあたるものと解するを相当とするから、前記松永学長の委嘱については理事会の決議を経ることを要するものというべきところ、被告は昭三四年七月二八日の被告学園の理事会に於て然らずとするも同年八月一九日の同理事会に於て右学長の委嘱選任につき理事会の決議を経ている旨抗弁するけれども成立に争のない甲第三号証によれば、被告学園の寄附行為上理事会は理事長これを招集すべきこととされているにかかわらず、右の理事会が野本(理事長の地位にないことは右に認定したとおりである)によつて招集されたものであることは、弁論の全趣旨により被告の自ら主張するところと認むべきであるから、たとい被告主張のような理事会が開かれたものとしても、その理事会は理事長でない者によつて招集された点に於て違法であり、その決議は何等効力を生じないものといわなければならない。従つて前記松永学長の委嘱はこの点においても無効であり、同人は被告学園の理事に就任することはない。

四、請求原因の(1)の事実は当事者間に争がなく、右の理事会が野本によつて招集されたものであることは、弁論の全趣旨によりこれまた当事者間に争がないものと認められる。然し、野本は既に判断したように被告学園の理事長の地位にはないものであるから、右理事会は招集権者でない者によつて招集された瑕疵があり、従つて右理事会に於て理事として三村英雄、堀熊次郎を選任した決議はその効力を生ぜず、同人等は理事の地位を取得することはない。被告は野本が理事長でないとしても理事たる資格を有する野本に招集権がある旨主張するけれども理事長が欠けた場合、当然に理事に招集権が生ずるとみる根拠はないのでこの主張は採用できないし、このことは以下の判断においても同様である。

五、請求原因(五)の(1)の事実は当事者間に争がない。そして成立に争のない甲第一六号証の一、二によれば昭和三四年一〇月七日の被告学園の理事会は野本が理事長として招集通知をしたことが認められるが野本は前記のように理事長ではないのであるから、右理事会は招集権者でない野本が招集した瑕疵があるといわなければならない。次に右理事会の議題が招集通知によれば「学園の決算及び予算その他の件」となつていたことは当事者間に争がないが、右理事会に於て原告等を解任するについてはそれが役員の地位の変動に関するもので利害の大なる事項である以上、少くともその趣旨を窺知するに足るだけの事項を議題として起載することを必要とすべく、被告主張のように単に「その他の件」というような概括的記載を以てはこれに代えることはできないと解しなければならない。又右理事会に理事として三村、堀が出席したことは当事者間に争がないが、両名は前記のように被告学園の理事ではない。そうすると、右理事会に於ける原告等を解任する旨の決議は右いずれの点よりするも無効であるというべく、原告等は理事の地位を喪うことがない。

六、請求原因(六)の(1)の事実及び昭和三六年一〇月二日の理事会に理事として三村、堀の両名も出席してその決議に関与していることは当事者間に争がない。然し前記と同様に野本は理事長でなく右理事会の招集権者ではないのであり、三村、堀の両名は理事でないのであるから、この点に於て右理事会に於ける名川を理事長に選任する旨の決議は無効というべきであり、同人は理事長の地位を取得しえない。

七、以上判断したところによると野本及び名川は被告学園の理事長の地位にないこと、松永、三村、堀は同学園の理事の地位にないこと及び原告等はなお、同学園の理事としての権利義務を有することが明かであり、従つて、原告等のそれぞれの地位の存否確認を求める請求はいずれも理由があるものというべきである。尤も原告等はいずれも三年の任期満了により理事を退任した関係にあることが明かであり、又弁論の全趣旨により成立を認める乙第一二号証によれば野本は昭和三六年一〇月六日任期満了により既に理事長を退任した関係にある事実が認められるけれども前叙のように原告等はなお理事としての権利義務を有し、又野本の後を継いだ理事長の名川がその地位を取得していないため野本はなお理事長としての権利義務を有する関係が残存することとなるから、原告等はなお、自己が理事たる権利義務を有し野本が理事長たる権利義務を有しないことの確認を求めうるものといわなければならない。

よつて原告等の請求は何れも正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部 茂 吉

裁判官 奥   輝 雄

裁判官 宍 戸 達 徳

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